備忘録 「トランプは「旧保守」というより、むしろサッチャーに近いのではないか。」を受けて
2016年 11月 29日
「思うのですが、「旧来保守」対「新保守」という、あたかもそこに対立構造があるかのように思わせる分類に無理があるのではないでしょうか。
実際には「旧来保守」と「新保守」との間には、対立点より共通点の方がずっと多い。両者の区切りは、本当はもっと曖昧なのではないかと思います。それが広く理解されていないために、「クリントンよりトランプの方がマシ」という妄論を信じてしまう「リベラル・左派」が後を絶たないのではないでしょうか。」
この点について、本社社主も、同意する点があります。
冒頭に紹介した本社記事では「トランプは、旧来の土豪であり、金はあるが、品はない、という日本でも、どこでも居そうな地主兼地方政治家というタイプではないかとおもいます。」としています。
日本で言えば、金丸信や竹下登もこの系譜です。そして、そうした政治家は、実はサッチャー=新保守主義と似たような面も持っている。具体的に言えば、竹下登こそは、消費税を導入し、大金持ち・大手企業減税をスタートさせた男です。
さらにいえば、竹下派の7奉行の一人である橋本龍太郎(個人)は、中曽根政権において国鉄分割民営化を担当。その後、90年代に総理になったときには、経団連とアメリカの構造改革要求を受け入れ、規制緩和を実施。消費税増税と健保負担増で大不況をもたらしました。
もっと踏み込んで言えば、日本においては「経世会=旧来保守」で「清和会=新保守」というイメージが特に左翼陣営にも浸透しています。そして、左翼の一部には「経世会=善、清和会=保守」というイメージもある。
だが、結局それは、小泉純一郎さんらを叩く勢い余って、橋本や竹下、金丸を免罪することにつながってしまいます。安倍晋三さんは確かに最悪の総理ではある。そうではあるが、全てを安倍さんのせいにしてしまっては、それまでに竹下、金丸、橋本がずっと新自由主義を積み上げてきたことに対する「失礼」に当たるでしょう。
トランプは敢えて言えば「金丸信」が近いでしょう。暴言というよりは失言が多いが「不適切発言」が多いという意味では似ている。
大金持ち減税を推進。思いやり予算を導入(トランプは増加を要求)。ハコモノバラマキを推進。
旧保守と新保守の共通点はトリクルダウンである。
旧来保守の場合は、ハコモノバラマキ→大手企業を誘致→地方自治体・中小企業も潤うという路線。左派の要求を飲んで社会政策もやる。
新保守の場合は、大金持ち・大手企業減税に重点がある。新保守の場合は、どちらかというと重厚長大よりは金融やITなど軽薄短小産業に重点がある。
ということでしょう。
金丸、竹下は、旧来保守と新保守の間という感じがします。それは、ちょうどトランプに合致する。安倍晋三さんもそうでしょう。
もう一度整理すると
クリントン=ポストモダニズム(グローバルインテリの代表)
特徴:新自由主義+ジェンダー平等、民主主義、人権は表面上重視。
日本で類似する政治家 小泉純一郎(所属政党は自民党だが神奈川県が地盤)、細川護煕、前原誠司など旧民主党右派、長洲一二(故人、社会党右派の代表的イデオローグから神奈川県知事になったが、市民参加を大義名分に新自由主義の下敷きになる方向性を出した)
世界で類似する政治家 G.Wブッシュ、メルケル、シュレーダー
支持基盤 大都市上層+大手企業・正規公務員労組
サンダース=庶民代表
特徴:経済的には格差是正、政治的にはリベラル
日本で類似する政治家 志位和夫、福島みずほ、宇都宮健児
支持基盤=年配左派+インテリリベラルの若者
世界で類似する政治家 メルケル、シュレーダー
トランプ=保守(新旧双方)
特徴:トリクルダウン仮説に依拠 ハコモノバラマキ+減税→地方に利益、政治的には右派
日本で類似する政治家 金丸信、安倍晋三
世界で類似する政治家 プーチン、エルドアン、モディ
サッチャー:新保守
特徴:トリクルダウン仮説に依拠 減税→大手企業に利益 政治的には右派
日本で類似する政治家 中曽根康弘、安倍晋三(第一次)
世界で類似する政治家 レーガン(故人)
旧来保守
特徴:トリクルダウン仮説に依拠 ハコモノバラマキ→地方・中小企業に利益。一定の社会政策も。イデオロギーにとらわれぬ自主外交も
日本で類似する政治家 田中角栄
世界で類似する政治家 1970年代以前の保守政党出身の首脳ほぼ全員
G.Wブッシュ ポストモダニズムと新保守の中間
日本で類似する政治家=橋下・小池
小池百合子知事や橋下徹市長は、「ポストモダニズム」と「新保守」双方から支持が厚い感じがします。日本の一部のリベラルも、「反体制」イメージで、彼らを持ち上げる感じがします。
一方、反原発の勢い余って、ポストモダニズムに属する小泉さんや細川さんを過剰に持ち上げる向き。
一方で格差に憤る勢い余って、ポストモダニズムに反感を抱き、トランプ新大統領や「新保守」的な色彩も強い小池さん、橋下さんを持ち上げる向きもリベラル内部にはあります。
リベラル内部でも足並みがそろわない結果、安倍総理が相対的に浮上している感じもします。