「冷温停止」に惑わされるな(上岡直見記者)
2011年 09月 30日
昨日、福島第一原発が冷温停止した、と報道されました。
そして、政府は、福島第一原発から20kmから30kmの「避難準備区域」の解除を決定しました。
しかし、「「冷温停止」に惑わされるな。」
上岡直見記者はこのように訴えています。
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そして、政府は、福島第一原発から20kmから30kmの「避難準備区域」の解除を決定しました。
しかし、「「冷温停止」に惑わされるな。」
上岡直見記者はこのように訴えています。
「冷温停止」に惑わされるな
http://www.janjanblog.com/archives/51977
2011年 9月 30日 00:10 【論説】 <エネルギー> <原発>
上岡直見
2011年9月29日、19時のNHKニュースのトップで福島第一原子力発電所の「冷温停止」に関する報道が始まり、アナウンサーが「温度は下がりましたが、なお多くの課題が残されています」などと読み上げた直後、19時05分に久しぶりの「緊急地震速報」が発せられ、福島県内で震度5強の地震が発生したとの報道に切り替わった。しばらく地震関係の報道が続き、原発のニュースは短縮されて終わってしまった。いわき市の「フラガール」公演再開のニュースのほうが時間が長かったように思えた。
野田佳彦首相は2011年9月22日、ニューヨークの国連本部で開かれた原子力安全に関するハイレベル会合で演説し、2011年内に原子炉の冷温停止状態を達成すると発表した。しかし冷温停止は収束ではない。冷温停止で「一安心」であるかのような認識は危険である。
「冷温」という用語は、圧力容器内の水温が100℃以下、すなわち大気圧でも沸騰しない温度以下になったという意味で用いられている。ただしこれはあくまで正常停止時、すなわち燃料棒が正常である場合の話である。水温が100℃を超えている状態で、点検のため圧力容器を開放するなど圧力容器の内部が大気と通じると、沸騰した水が水蒸気として環境中に放出されてしまうが、燃料棒が正常であればいわゆる「第一の壁(ペレット)」と「第二の壁(金属被覆管)」によっていちおう放射線は遮蔽されている。このため水温が100℃以下になっていれば放射性物質の放出は限定されるという考え方である。
しかし現在は状況が全く異なる。1~3号機とも燃料の溶融・崩壊が発生し、圧力容器が損傷して、むき出しの核燃料に接触した水が直接、または格納容器や圧力抑制室を通じて、いずれかで大気と通じていると考えられる。一方、図1に示すように燃料の崩壊熱は依然として出続けており、3基合計で年末でも6000kW分くらいの冷却が必要であろう。
図1 停止後の熱出力
そもそも発表される温度は「原子炉周辺」の温度とされているが、具体的にはどこを測定しているのだろうか。どこがどう壊れているかは、現在でも観察はもとよりロボットでカメラを入れることすらできないので、実際にどこの温度を測定しているのかは全く推測に過ぎない。温度の測定は、一見すると温度計さえ入れればよいので簡単に思えるが、技術的には「真の温度」を測定するというのはきわめて困難なことである。その割には「99.7度」というようなやたらに細かい小数点以下の数字が発表されているが、工学的には全く信頼できない。
図2に冷却に関する概念図を示す。1~3号基とも、初期の段階で圧力容器・格納容器のいずれかに穴が開いたと思われる。当初は消防車のポンプで①のように外から注水するしかなかった。もし崩壊熱を単純に注水だけで冷却しようとすると、③の溶融燃料とまともに接触して高濃度に汚染された水が④のように溜まり、結局のところ入れた分だけ②のようにあふれて出てきてしまう。しかしその高濃度の汚染水はどこにも捨て場がなく、発電所内に溜めるしかない。その一部は海に漏出した。単純に注水だけに依存すれば1日に数千トンの水が必要となる計算である。
図2 冷却システムの概念図
かといって、汚染水の発生量を抑制するために注水量を絞ると、圧力容器や格納容器の温度と圧力が上がるとともに、爆発を招く水素発生の可能性も高まる。いずれも圧力容器や格納容器の物理的な破壊の可能性を招く。当初はそのバランスをみながら試行錯誤で注水量を加減していたが、いずれにしても長期的には続かない。ほどなく水の捨て場が行き詰まって冷却が続けられなくなるので、水処理装置を導入して循環システムを作る必要があった。現在(2011年9月末)では1日あたり約550トンの廃水を処理する必要があるとされる。
④の汚染滞留水をポンプで汲み出して⑥の水処理装置へ導入し、油分離・吸着・除染・塩分処理などの工程を経て、再循環できるレベルまで処理したのち、循環水タンクを経てポンプで再度圧力容器や使用済燃料プールに注水される。現在、海水は注入していないが、初期に注入した海水を完全に抜き出して入れ替える方法がないので、少しずつ真水を補給しながら薄まるのを待つしかない。そのため現在も塩分処理装置が必要とされる。④の滞留汚染水はいまもタービン建屋地下に大量に溜まっているが、水処理設備の稼動とともに徐々に減っていると報告されている。しかし原子炉建屋やタービン建屋の地下も地震で損傷している可能性があり、亀裂を通じて継続的に土壌へ浸み出している可能性がある。いずれにしても現状ではロボットでも観察できない状態なので、周辺のモニタリングにより間接的に推定するしかない。
一方、水処理システムを通したからといって、放射性物質が消えるわけではない。いずれも⑦のように、水から除去した汚染物質・不純物は高濃度の廃液や廃固体として外部に取り出すしかない。、さらに水処理システムそのものも吸着剤などを交換する必要がある。大量の水がそのままあふれ出てくるよりも保管場所の点では多少は楽になるが、要するに水を回しているかぎり、溶融燃料から際限なく発生する放射性物質が、すべて外に移動してくるのである。要するに、③の破損燃料を、水を通じて⑦の高濃度廃棄物として取り出しているようなものである。
すでに図1で示したように、燃料の発熱はまだ続いているし、水処理施設などはあくまで「仮設」である。圧力容器はもとより格納容器にも近づくことも触ることもできないので、どこか壊れているにせよ本格的な耐震対策はできない。5月時点の東京電力のロードマップでは、格納容器の補修について「グラウトセメントを充填」としていた。グラウトセメントというのは一般的な用語でいえば「モルタル」である。しかし格納容器にしても配管にしても、厚い金属の構造物を補修するには溶接などの金属的工作が必要であるが、放射線が強くてそうした本格的な作業ができないのでグラウトセメントの注入を検討したと思われる。私はこのような対策は実施不能だろうと予見していた(*)が、その通りで2011年9月20日に経済産業省から公表されたロードマップでは、この項目は実施しないとして対策から削除されていた。
もし東北沖で再度M7~8級の余震があれば、冷却システムの機能が失われて、ただちに3月の状態に戻ってしまう可能性もある。「冷温停止」といっても何ら「停止」はしておらず、放射線の遮蔽なども考慮した「収束」からはほど遠い。政治的な思惑から避難地域の帰宅を促進するなどきわめて危険なことではないだろうか。
(*)福島収束見通しは非現実的─水に依存した対策の限界
http://www.janjanblog.com/archives/36837
上岡直見記者のプロフィール
JanJanニュース創立から参加している。交通政策・環境政策がテーマ。「政治談議」でなく論理と数字で評価することを重視。
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by hiroseto2004
| 2011-09-30 19:27
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