「男女共同参画」に取り組む韓国の市民はいま(3)(保存版)JANJAN記事
2013年 12月 05日
http://voicejapan2.heteml.jp/janjan/living/0908/0908018062/1.php
「男女共同参画」に取り組む韓国の市民はいま(3)
法整備で内容充実めざましい「韓流」女性政策、国際発信も視野に
さとうしゅういち2009/08/06
前回記事:「男女共同参画」に取り組む韓国の市民はいま(2)
韓国の男女共同参画を取材している私は7月30日午前中に、「女性部」(日本で言う省)を訪問しました。ここでは、女性部人権保護課のパク・トンヒョン事務官(男性)が対応してくださいました。(整理の都合上、実際のお話とは前後しています)。彼の部署の仕事は、DVなどから女性を保護することです。
韓国の男女共同参画を取材している私は7月30日午前中に、「女性部」(日本で言う省)を訪問しました。ここでは、女性部人権保護課のパク・トンヒョン事務官(男性)が対応してくださいました。(整理の都合上、実際のお話とは前後しています)。彼の部署の仕事は、DVなどから女性を保護することです。
パク事務官(中央の男性)。大変スムーズに質問に答えてくださった。(撮影筆者)
最近、「女性家族部」から女性部になり予算が少なくなっています。ただ、それは、保育や家族政策に関する予算が、保健福祉家族部(日本の厚生省に相当)に移ったためです。予算としては、増額傾向にあるようです。
国としての一般会計予算は271億ウォンで国家と地方で半々です。地方を合わせた予算はその倍です。また、「女性発展基金」として86億ウォンずつを国と地方が拠出しています。国家と地方が同額を用意して、各団体に配分するそうです。
もっと細かく分けると、負担割合は国が50%、広域市・道25%、市・郡・区で25%です。財政条件に合わせて比率を変えるべきという意見はあり、実際に広域市負担分については、ソウル地域とそれ以外で多少変えているそうです。
ただ、財政力だけでなく、被害者の数などの問題があります。他の地域で治療を受ける女性もおり、自治体側も嫌がる実態はあります。ハードの整備には賛成してもそこに女性が来ることには拒否反応があり、慎重に検討しています。
全予算が男女平等に配慮
韓国の男女共同参画の目玉のひとつは、すべての国家予算を男女平等の観点で組んでいることです。
女性関連の予算は全ては把握しにくいのですが、2009年度からジェンダーの視点に立ってすべての分野の予算を組んでいる(性認知予算)そうです。そして、決算書を提出させることになっています。
女性部では2004年から「性別力量評価」といってジェンダーの視点に立って評価をしていたのです。
たとえば今までは、以下のような女性に不利に編成されて執行されている予算もあります。たとえばスポーツ予算が、野球やサッカーだけに配分すると、競技者も観戦者も女性より男性が多いです。そこで、男性に有利な予算だから改めていく、という按配です。
科学予算でも男子学生が多い分野に予算配分が多いと男性に有利と判断します。農漁村の人材育成に対する予算投入でもどちらかの性に偏ってはいけないのです。
時代の流れがあり、男性国会議員も大きな反発もなかったのです。2004年から試行を始め、猶予期間を置いて2009年度から実施しているそうです。さらに、総理室(首相直属)の所管で、児童と女性施策の点検団をつくって国や自治体のチェックする活動をしています。
あくまで「女性部」
女性部の予算としては、おおよそとしては性暴力とDVに同額割り当てています。細かく分けると、シェルターなどの施設の設置運営費と、それ以外のソフト的な部分の予算(プログラム予算)に分けられます。
施設設置運営費については、相談所(カウンセリングセンター一箇所当たり5800万ウォン、164箇所)、保護施設については一箇所につき(5000万ウォンから1億1000万ウォン、82箇所)。24時間365日対応する女性緊急電話1366が16箇所設置され年間2億ウォン配分されています。さらに、「ワンストップ支援センター」があります。
ここで、被害女性が困っていることすべてに対応します。心理相談、医療支援、捜査支援などを行ないます。警察、政府、病院が連携しています。女性警官を派遣、治療空間も提供します。
また、13歳未満を対象に、「ひまわり児童センター」が、ワンストップ支援センターに似た考えに基づき設置され、一箇所につき5億ウォンで10箇所あります。
ソフト関連の費用は、以下のようなものがあります。被害の立証のために、国と地方で7億ウォンずつ出し合い被害の立証に当たっています。
被害者が弁護士を頼むためなどの法律扶助には15億ウォンが配分されています。
さらに、加害者に対する更正教育(2004年度から)については、被害者回復には、年間70億ウォンを配分しています。
DVについては、家庭内問題で国家は介入しないという考えが続いていました。しかし、女性運動から人権問題だから国家が責任を負うべきという要求が出され、国家が事業を実施することになりました。そして、NGOや保護施設に国家が支援するようになったのです。より多くのNGOに支援が出来るようになりたいとも決意を述べられました。
日本の場合は「男女共同参画」という名称で、実をいえば、この名称自体、多くの女性からも不満があったのです。どうとでも解釈できる面もあります。しかし、韓国の場合は、女性施策を底上げするという意欲が感じられます。
保護から自立まで充実した施策
大人の被害者と子どもの被害者の違いは大人は緊急性が必要で24時間体制が必要です。女性警官も24時間体制で対応しています。一方で子どもの場合は家族への対応が必要です。
大人については、一ヶ月保護することが出来ます。長期保護施設は2年です。障がい者と外国出身女性については2年までです。賃貸住宅に申し込めば優先権を得ることが出来るようにする法改正も国会で継続審議中です。
グループホームに入居した段階で自立の練習をするようにするそうです。当然、勤めに出たりもしてもらいます。賃貸住宅は仕事をすることが前提とされます。
保護施設は準備段階です。まとめると、自立準備段階でグループホーム、最終段階として賃貸住宅優先入居があります。
また、家族による性暴力被害の場合で子どもの場合は、保護施設が基本的に必要です。
効果が高い加害者教育、法整備も
韓国の女性政策のもうひとつの目玉は、加害者教育です。6ヶ月から4ヶ月の教育処分を受けると、加害者が起訴猶予してもらえる場合があることです。
「相談条件付起訴猶予」といい、2006年から法的根拠が持たされています。このため、告訴を恐れた夫からの電話相談が多くなっています。
相談は、アメリカでは本人負担で教育するのですが、韓国では国費で行なうのです。加害者は多くの場合非常に改善されたそうです。この点について日本側からは感嘆の声があがりました。なにしろ、日本では、そんなに効果がないのではないか、という疑問もあるからです。
被害女性の満足度も高いそうです。女性施策の韓流を広めるということを宣言されていることに納得しました。
なお、加害者教育に夫婦一緒に参加するケースも若者では増えています。ソウルではそういう処分(相談条件付起訴猶予)をする検察がケースも増えています。そういう場合は離婚しない場合が多いのです。
起訴猶予を法で定めることには法理論的には問題が有るという議論もありましたが、早い段階での被害者救済のため、検察段階でそういう判断をするよう法制化したそうです。
また、予防教育を学校教育にも取り入れています。アジアでは家父長制的な文化が根底にあります。性認知的(ジェンダーに敏感な)教育を行うということです。
「韓流」女性政策を発信する意気込み感じた
韓国女性部は、ここ10年で進んだ男女平等への取り組みを背景に、「韓流」女性政策を国際的に発信すると表明しています。今回訪ねたパク事務官も、大変きびきびと質問に答えてくださいました。優秀な官僚だと思いました。
日本側参加者からも「現場の女性でもここまでわかっている人はいない」という感嘆の声が出ました。もちろんこれも、韓国の女性運動が、きちんと法整備をするよう取り組んできたということの反映です。
日本の場合、草の根の運動はがんばっているのです。が、いかんせん政治力が弱いわけです。女性議員比率は欧米よりも、そして韓国よりも少ない。そのことに便乗して、官僚(国・自治体)側も、あまり熱心ではなく、草の根団体の奉仕に丸投げしてしまうのです。
アメリカのように、NPO/NGOへの寄付の風土があればいいのですが、それもない日本ですから、あまり役所にものを言いにくい。こういうこともあり、なかなか施策が進まない、という状況があります。さらに日本におけるマクロ的な構図として、(女性センターなどでは)施策推進を薄給の主婦パートないし、ボランティアに頼っています。今後取り組むべき課題は山積、と感じました。
by hiroseto2004
| 2013-12-05 20:48
| ジェンダー・人権(DV・性暴力)
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