ヤマト運輸 未払い残業代大幅増か 労基法逸脱の勤務管理
2017年 04月 04日
ヤマト運輸の未払い残業代をめぐり、労働者の請求金額と会社の算定金額に大きなくいちがいがある場合があります。問題のひとつが、変形労働時間制が適用されるかどうかです。同制度の運用が労働基準法の要件に違反する場合は、未払い残業代が大幅に増えることになります。(田代正則)
この問題が明らかになったのは、横浜地裁で行われた労働審判です。神奈川労連に相談して残業代を計算した元宅配トラック運転者2人は、それぞれ301万円、276万円を請求。対して、ヤマトの提示金額は72万円、90万円と3分の1以下でした。
ヤマトの運転者には、1カ月単位の変形労働時間制が適用されています。会社側は1日8時間以上働いても残業代が発生しない場合があると主張しました。
しかし、同制度には労基法で厳しい要件があります。労使協定を結ぶこと、対象期間の勤務スケジュールを事前に決めておくことなどです。違反すれば、原則どおりに残業代が支払われます。
労働審判での労働者側の主張によると、1カ月(31日)に働かせることのできる上限177・1時間を超え、200時間以上の所定労働時間が割り振られたり、ひんぱんなスケジュール変更で前日にならないと自分の勤務がわからないなど、労基法違反の運用実態がありました。労働者が保管していた勤務表を証拠に出しました。
労働審判は3月23日、ヤマトが解決金を支払うことで調停成立。労働者側は「主張が通ったものと理解している」と表明しています。日本共産党の田村智子議員は3月22日の国会追及で、未払い残業の精算を値切るとすれば二重に悪質だと指摘し、本社調査を要求しています。
未払い残業調査について、ヤマト本社に問い合わせたところ、「調査して必要だと認められた部分について支払う」と答えました。
疑いあれば再調査
労働審判を担当した穂積匡史弁護士
会社の提示した残業代にその場で同意のサインなどはせず、一度、資料を持ち帰って、変形労働時間制に問題がないか弁護士など専門家にみてもらうべきです。会社は不適切対応があれば再調査を行うといっているので、すでにサインしてしまっても、疑わしい場合は再調査を求めた方がいいでしょう。
変形労働時間制 労働基準法で週40時間1日8時間までとされている労働時間について、繁忙期のある仕事などで例外的に規制緩和する制度です。労使協定やスケジュール管理などの要件を満たし、1年や1カ月などの対象期間を平均して週40時間労働に収まれば、特定の週に40時間や1日8時間を超えても残業代を支払う必要がなくなります。
ヤマト運輸(東京)の県内営業所に勤務していた男性(当時46歳)が自殺したのは、上司からの長期間にわたるパワーハラスメントが原因だとして、長野県内の遺族3人が同社と当時の上司に計約9485万円の損害賠償を求める訴訟を長野地裁に起こした。
31日に代理人弁護士が記者会見を開き、明らかにした。提訴は2月28日付。
訴状によると、男性は2012年秋頃から、営業所長から人格を否定する暴言や暴行を受け続け、14年9月頃にはうつ病を発症。15年1月頃に自殺した。遺族は、同社についても、適切な労働環境の整備を怠ったと主張している。
遺族は15年8月、県内の労働基準監督署に労災を申請。16年3月に労災認定を受けた。
代理人弁護士は記者会見で「男性は上司から『小学生以下だ、お前は』『顔を見るだけで殺したくなってくる』などの暴言を受けていた。録音記録もある」と説明した。訴訟では、この記録のほか、男性が作成した被害状況を記したメモや、医師の診断書などを証拠提出したという。
ヤマト運輸は取材に「係争中のため、コメントは差し控える。弁護士と協議した上で、対応を考えたい」としている。