茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の施設で、放射性物質を入れた袋が破裂して、現場にいた作業員5人の服などが汚染された事故で、1人の肺から2万2000ベクレルの放射性物質が計測されました。原子力機構は将来、健康影響が出るおそれが否定できないとして、5人を専門の施設に移し、詳しい検査を行うことにしています。
茨城県にある日本原子力研究開発機構の「大洗研究開発センター」の施設で、6日午前、5人の作業員が燃料の貯蔵容器の点検をしていたところ、実験で使ったプルトニウムや、ウランを含む放射性物質の粉末が入った袋が破裂し、身につけていた防護服や手袋が汚染されました。
原子力機構によりますと、7日、体外に出てくる放射線を測定する機器を使って調べたところ、5人のうち、原子力機構の50代の職員1人の肺から2万2000ベクレルの放射性物質が計測されました。この放射性物質はプルトニウム239で、実際にどのくらい被ばくしているかはまだわかっていません。
記者会見で、原子力機構の担当者は体内に入り込んだ放射性物質の影響で被ばくする「内部被ばく」について、自然に排出される量などを考慮して計算した場合、50年で12シーベルトとなり、将来、健康影響が出るおそれが否定できないと説明しました。この職員は当時、破裂した袋に最も近い場所で作業をしていたということです。
ほかの4人についても、原子力機構の20代の職員が1万4000ベクレル、40代の派遣の作業員が6000ベクレルなど、いずれも肺から放射性物質が計測されたということです。
こうしたことから、原子力機構は5人全員について、放射性物質の体外への排出を進める薬剤を投与するとともに、千葉市にある放射線医学総合研究所に移して詳しい検査を行うことにしています。
5人は当時、燃料研究棟と呼ばれる核燃料の研究開発などに使われていた施設で作業をしていて、原子力機構は漏れ出した放射性物質による外部への影響はないとしています。
専門家「致命的ではないがリスクも」
今回の事故について、被ばくの影響に詳しい東京大学医学部の中川恵一准教授は「2万2000ベクレルという高い値の放射性物質が体内から計測される事故は国内では経験のないものだ」と話しています。
そのうえで、これらの放射性物質による『内部被ばく』の影響について「12シーベルトもの被ばくは、治療などを何も受けずに50年間、放射線の影響を受け続けるという最悪の事態を想定したものだろう。もし、これだけの放射線を『外部被ばく』で一瞬にして受けたものなら死に至る値だ。しかし、『内部被ばく』の場合、影響は50年という時間をかけてのものなので異なる。白血病の治療でも数回にわけて12シーベルトを照射することもあり、今後、薬剤などで放射性物質を体の外に排出する治療などを行えば、おそらく致命的な影響が出るものではないと考える。ただ放射性物質が長くとどまれば、肺が硬くなる放射線肺臓炎などのリスクも考えないといけない」と話しています。
プルトニウム239 体内に入るとがん引き起こすおそれ
プルトニウム239は、核燃料を原発で使ったときなどに生成される放射性物質で、昭和20年に長崎に落とされた原子爆弾の原料に使われてたことでも知られています。
プルトニウム239が出すアルファ線と呼ばれる放射線は紙1枚で遮ることができますが、体内に入ると細胞の遺伝子を傷つけてがんなどを引き起こすおそれがあります。
プルトニウム239が出す放射線の強さが半分になるまでの半減期は、2万4000年と非常に長いのが特徴です。
大洗町長「事故が起き遺憾」
事故について、施設がある茨城県大洗町の小谷隆亮町長は「原子力施設を持つ町として、安全を第一にするよう常に施設側には話をしてきました。このような事故が起き、遺憾に思います。もう少し、慎重を期すことはできなかったのか疑問を感じます。住民に心配をかける事態を二度と起こさないよう、これまで以上にしっかりと対応してほしい」と話していました。