「危険でもつい利用 車いすでエスカレーター、複雑な事情」
2017年 07月 13日
高松市で、車いすでエスカレーターに乗って転倒し、後ろの利用者が巻き込まれて死亡する事故が起きた。メーカーなどは車いすでエスカレーターに乗らないよう呼びかけるものの、利用する人はいる。エレベーターが使いづらい面もあり、障害者や支援する人々は頭を悩ませている。
事故は10日午前10時40分ごろ、高松市内の商業施設にあるインテリア店「ニトリゆめタウン高松店」で起きた。
香川県警によると、市内の無職男性(81)は車いすの妻(79)を後ろから支えながら、エスカレーター(高低差約5メートル、幅約1メートル)で2階から3階に向かっていた。だが、3階降り口の段差に車輪が引っかかり、バランスを崩して車いすごと2人は転げ落ちた。後ろにいた女性(76)が巻き込まれて全身を強く打ち、出血性ショックで死亡した。男性は左腕に軽傷、妻は頭に重傷を負った。悲鳴を聞いた店員が駆けつけ、緊急停止ボタンを押したという。県警が過失致死容疑で調べている。
妻は普段から車いす生活を送っていた。この商業施設には、計7カ所ある1階の入り口やサービスカウンターで車いすを貸し出すサービスがある。夫婦はこの日、車で訪れた。男性が車いすを借りて駐車場まで運び、妻を乗せて移動していたという。
事故現場のエスカレーターから20メートルほどの場所にはエレベーターがあった。男性は県警の調べに対し「そこにエスカレーターがあったので乗ってしまった」と話しているという。
現場のエスカレーターには車いすでの利用を禁止する注意書きなどはなかった。ニトリは今回の事故を受け、全国の店舗にエスカレーターでの車いすやベビーカーの使用禁止を呼びかける看板を設置した。(森下裕介)
車いすメーカーは「事故や転倒・転落の恐れがある」と取り扱い説明書に明記するなどし、エスカレーターで利用しないよう呼びかけている。大手の松永製作所(岐阜県養老町)は説明書に禁止と明記していないが、「そもそもエスカレーターでの利用を想定していない」と担当者は話す。
あるエスカレーター製造会社も「車いすやベビーカーなどのエスカレーター使用は禁止している」とする。「以前は、エレベーターがない駅舎などのために、車いすでも乗れるエスカレーターも製造していたが、エレベーターの設置も進んできたため、ここ数年は販売していない」
ただ、国土交通省によると車いすのエスカレーター利用に法的な規制はない。エレベーターなどが一概に使いやすいとも言えず、エスカレーター利用に理解を示す声もある。
全国脊髄(せきずい)損傷者連合会(東京)によると、上半身がしっかりして力のある車いす利用者にはエスカレーターに乗る人もいる。ただ、荷物を落とす、体のバランスを崩すといった報告が少なくないという。
電動車いすを利用する大浜真・代表理事は、エスカレーターがデパートなどの入り口のそばにある一方で、エレベーターは奥にあって不便なことがあると指摘する。エレベーターがいっぱいで乗れないことも多く、「ついついエスカレーターに乗りたくなる気持ちもわかる」。
1歳の息子がいる東京都豊島区の会社員女性(33)は、ベビーカーでエスカレーターを利用する。エレベーターの待ち時間が長かったり、駅では乗り換えや遠回りが必要だったりで、「危険だと分かっているし、後ろめたさはあるけど、つい利用してしまう」。
香川県社会福祉協議会はウェブサイトに、車いすの広げ方やエレベーターの乗り降り、階段の上り下りなどとともに、エスカレーターでの車いすの介助方法を示すマニュアルを載せていた。「危険を伴うので注意が必要」という注意を記したうえで、「キャスター(前輪)を上げてステップに乗る」、「階段状になりはじめたら、一つ上の段の角に後輪を押しつける」などと説明していた。
2004年に作成した介助の冊子に掲載した内容だが、今回の事故を受け、12日に削除した。社協は「事故があった以上、適切ではなかった。今後はエレベーターの利用を呼びかけたい」とするものの、「エレベーターのない施設もあり、エスカレーターの利用を100%否定できない」と頭を悩ます。
ユニバーサルデザインに詳しい三星昭宏・近畿大学名誉教授は「車いすでエスカレーターに乗るべきではないが、一概に責められない部分もある。エスカレーターの前に、エレベーターの場所を大きく表示するなどの対策も必要。画像認識の技術を使い、車いすで乗ってしまわないようにする対策も考えるべきだ」と話している。(斉藤寛子、根津弥)