広島と長崎に投下された原爆の影響を調べる目的で、アメリカが戦後設立した組織が、反米・反核運動が日本で高まる中、調査に協力的な被爆者が優先的に治療を受けられるよう、便宜を図っていたことを示す文書が新たに見つかりました。
専門家は「アメリカの対日政策を検証する上で貴重な文書で、被爆者に対する説明責任を果たすためにも、こうした資料を広く公開する必要がある」と話しています。
広島・長崎に原爆が投下された2年後の1947年、アメリカは放射線が人体に及ぼす影響を調べる目的でABCC=原爆傷害調査委員会を設立しましたが、原則として治療を行わなかったことに、被爆者から批判が集まりました。
今回、アメリカ科学アカデミーで新たに見つかった文書によりますと、原爆投下11年後の1956年、当時、広島で活動していた「原爆被害者の会本部」という団体の代表が、東西冷戦の中で親米・反共主義を基本とするみずからの立場や調査への協力を伝えたうえで、自分たちの団体のメンバーに独占的に治療を行うよう、ABCC側に手紙で働きかけていました。
これに対し、ABCC側は優先的に治療を受けられるよう、日本側の機関と連携し、実際に便宜を図っているとしています。
当時は、アメリカの水爆実験で、日本の漁船「第五福竜丸」の乗組員が、いわゆる死の灰を浴びて被爆し、原水爆禁止運動が高まっていました。
便宜の必要性についてABCC側は「限定的な治療を提供すれば、被爆者と医療従事者は感謝と友好の念を示すでしょう」と結んでいます。
ABCCの歴史に詳しい名古屋大学大学院の高橋博子研究員は「第五福竜丸事件の後、アメリカは反米・反核感情が日本で広がることを恐れ、ABCCも何らかの医療行為をする方針になっていくが、自分たちの方を向いている人には治療をするという露骨な態度、アメリカの科学者の本音が大変よく見える」としたうえで「当時を検証する上で貴重な文書で、被爆者に対する説明責任を果たすためにこうした資料の公開を進める必要がある」と話しています。