琉球新報<社説>辺野古土砂投入1年 工事断念し普天間閉鎖を
2019年 12月 15日
政府は沖縄の人々を国民と見なしているだろうか。そんな疑問が湧くほど傍若無人極まりない。
名護市辺野古の新基地建設に向け、辺野古沖に政府が土砂投入を始めてから14日で1年となった。その約2カ月半前には、建設に反対する玉城デニー氏が相手候補に約8万票の差をつけて当選したばかりだった。その民意を無視した土砂投入は民主主義国家にあるまじき暴挙だ。
投入後のこの1年も県民は諦めず建設反対の民意を示し続けた。極め付きは2月の県民投票である。知事選の結果は多様な政策選択の表れだとして建設反対の民意を軽んじる政府に対し、辺野古埋め立ての賛否だけを問い、投票総数の7割が反対の意思を示した。直接民主制の方式を使った決定的な民意だ。しかし政府は一顧だにしなかった。
県民投票後も、4月には名護市を選挙区に含む衆院沖縄3区補選、7月には参院選で、いずれも建設に反対する候補が勝利した。これらの結果も無視された。この状況は国際的に見ても異常で、恥ずべき事態だ。真の民主主義国家なら沖縄の民意を踏まえて建設を断念し、普天間飛行場を即時に閉鎖するはずだ。
しかし政府は異常と考えていないようだ。対話を求める県の「待った」をねじ伏せるかのように行政手続きを進め、工事を強行している。このため二つの訴訟が進行中だ。
国土交通相は4月、県の埋め立て承認取り消しを取り消す裁決を下した。このため県は7月、国を相手に裁決の違法性を主張し提訴したが、高裁は県の訴えを却下した。県は上告している。一方、県の埋め立て承認撤回は適法であり、撤回を取り消した国の決定は違法だとして、県は8月に国交相の裁決取り消しを求める裁判も起こしている。
国と争う県の姿勢の背景には、建設に反対する多くの県民の強固な民意がある。辺野古移設は政府が言うような負担軽減ではなく、滑走路をはじめ弾薬庫や軍港も新たに整備される機能強化だとの認識が県民の間で定着している。
米中ロが核戦力を拡大させる新冷戦時代に入り、核弾頭搭載可能な中距離ミサイルを米国が沖縄をはじめ日本に配備する計画もある。沖縄は日本復帰前と同様、核戦争の最前線に置かれる恐れがある。ミサイル配備とともに新基地建設は「敵国」から標的にされる危険を増す要因になる。
ミサイル配備阻止を含め、新基地建設を断念させる広範な世論を起こさなければならない。埋め立て工事は、軟弱地盤の影響で完成は見通せない。その間、普天間の危険性が放置されることは許されない。
工費は県試算で最大2兆6500億円に上る。社会保障費の確保がままならない中、膨大な血税の投入に見合う基地なのか。疑問だらけだ。全工程で見れば工事の進捗(しんちょく)はわずか1%だ。建設を断念させることを諦めてはいけない。