「楽天市場」を運営する楽天が一定額以上を購入した場合の送料を無料にするため、来月18日から出店者に「送料込み」の料金体系にするよう求めていることについて、公正取引委員会は優越的な立場を利用した不当な要求にあたる疑いがあるとして、独占禁止法に基づく緊急停止命令を東京地方裁判所に申し立てました。公正取引委員会が緊急停止命令を申し立てたのは16年ぶりです。
楽天は来月18日から「楽天市場」で一定額以上の商品を購入した場合、送料を無料にする方針ですが、公正取引委員会は今月10日、優越的な立場を利用して出店者に不当な要求をした独占禁止法違反の疑いがあるとして立ち入り検査しました。
しかし楽天の三木谷浩史社長は今月13日の記者会見で消費者にわかりやすい「送料込み」の料金体系を導入することで、予定どおりに送料無料化を実施するとしていて、「『送料込みで価格を調整してください』と出店者に言っているので優越的地位の乱用にはあたらない」という認識を示しています。
これに対し公正取引委員会はこのまま予定どおりに実施されれば公正な競争が侵害されるなどとして28日、送料無料化を停止させるため独占禁止法に基づく緊急停止命令を東京地方裁判所に申し立てました。
この命令は排除措置命令などの行政処分によって違反行為を排除させるより緊急を要する場合に行う措置で、今後、裁判所が命令を出すかどうか判断します。
公正取引委員会が「緊急停止命令」の申し立てを行ったのは、平成16年に有線放送最大手がライバル会社の顧客に限って料金を値引きするなどして不当に客を奪ったとされた事件以来、16年ぶりです。
緊急停止命令とは
「緊急停止命令」は、排除措置命令などの行政処分によって違反行為を認定したり排除させたりする前の段階で、違反の疑いがある行為を一時的に停止させるよう求める緊急を要する場合の措置で、放置すれば公正な競争が著しく侵害されたり、違法状態からの回復が難しくなったりすることが要件となっています。
今後、裁判所が命令を出すかどうか判断し、命令が出されたときにこれに従わなければ30万円以下の過料が科されます。
公正取引委員会による「緊急停止命令」の申し立ては過去に7件あり、裁判所の決定までに最大で3か月かかっていますが、企業側が違反の疑いがある行為を途中でやめるなどした2件を除いて公正取引委員会の主張がすべて受け入れられています。
楽天「法令上の問題はないと考えている」
これについて楽天は「緊急停止命令の申し立てを受けた事実を厳粛かつ真摯(しんし)に受け止め、裁判所の手続きに適切に対応して参ります」とする一方、「引き続き、本施策については法令上の問題はないものと考えております。公正取引委員会の調査については、ご理解を得るべく全面的に協力して参ります」とコメントしています。
今後、出店者に対する新たな支援策などを提供していくとしたうえで「出店者の売り上げや利益についての不安や懸念を解消するとともに、今後も出店者やユーザーの声に真摯に耳を傾け、本施策の改善に役立てて参ります」としています。
公取委 送料無料化で追加負担 出店者側から聞き取っている
公正取引委員会は28日の記者会見で「購入金額が一定以上になれば出店者は一律に送料を請求することができなくなるという意味で、『送料無料』も『送料込み』も実質的には同一のものと考えている」と述べました。
そのうえで「送料無料化が予定どおりに実施されれば、出店者の自由な取り引きが阻害され、競争の基盤そのものに悪影響が生じ続けるおそれがある。しかし排除措置命令を出すには一定の期間がかかるため、それを待っていてはわれわれが違反だと考える行為が放置されることになると考えた」と説明しました。
さらに送料無料化によって月に20万円から70万円の追加負担が発生すると出店者側から聞き取っていることを明らかにし「楽天は送料無料化を導入すれば、売り上げが10%程度伸びると説明しているが、出店者からすれば、売り上げや利益が確実に伸びるものではないと考えられる」と述べました。