博士号の取得を目指す学生への経済的な支援を拡充するため、文部科学省は1人当たり年間で290万円ほどを支給する取り組みを始めることになりました。博士課程の経済的な支援としてはこれまでにない規模になるということです。
博士過程の学生は全国に7万人余りいて、科学技術立国を支えているとされていますが、欧米と比べて奨学金が少ないうえ、新型コロナの影響も加わり、研究活動に支障が出ているケースがあるとして、文部科学省は経済的な支援を拡充するため、200億円を今年度の第3次補正予算案に計上しました。
この中では、学生を選んで合わせておよそ7000人を対象に、所属する大学から1人当たり年間で最大290万円ほどを研究費や生活費として支給するということです。
対象の学生は自由な発想で挑戦的な研究に取り組む大学院生で、詳しい応募条件などは今後検討されます。
博士課程の経済的な支援としてはこれまでにない規模になるということで、国は一連の取り組みを通して研究力の底上げを図りたいとしています。
背景に国際研究力への危機感

博士課程の学生への大規模な経済支援を国が初めて打ち出した背景には、日本の国際研究力に対する危機感があります。
自然科学の分野で発表された世界の論文数は、おととしまでの3年間の1年当たりの平均で中国が30万本余り、アメリカが28万本余りと、中国が初めてアメリカを上回り、世界1位となった一方で、かつて2位だった日本は6万4000本余りと4位でした。
引用数が多い上位10%の論文数では日本は9位でした。

文部科学省によりますと、日本の論文のおよそ2割を占めるのが博士課程の学生ですが、修士課程から博士課程に進む学生の数は2003年度をピークに減少を続け、昨年度までに4割減っています。
人口100万人当たりの博士号取得者も、日本は2017年までの10年ほどで131人から119人に減少し、各国が増加傾向にある中、最も多いイギリスの3分の1以下、アメリカ、ドイツ、韓国の半分以下の水準にまで落ち込んでいます。
欧米では研究にあたる博士課程の学生に奨学金や研究への対価を支給している国が多い中、日本の博士過程の学生は、生活費相当とされる年間180万円以上の収入がある人は10%にとどまり、半数以上の55%が「無給」となっています。
厳しい経済状況や博士号取得後のキャリアの不透明さを背景に「研究者離れ」「博士離れ」が課題となる中、ノーベル賞の受賞者からも対策の強化を求める声があがっていました。