伊方原発運転差止広島裁判第32回口頭弁論 南海トラフ地震とリンクせぬ杜撰な避難計画 被告四電は反論できず
2023年 04月 19日
この裁判は、あの東電福島原発事故から5年に当たる2016年3月11日に広島市民らが
四国電力を相手取って伊方原発3号機の運転差し止めを求めて提訴しました。
現在では広島県内だけでなく、伊方原発に近い愛媛県八幡浜市を含む全国各地から原告が
加わっています。
この伊方原発運転差し止め裁判の「人証調べ」が始まりました。
この人証調べとは、生身の人間が証言し、それが証拠となることです。
虚偽答弁をすれば偽証罪に問われます。
この日は、原告でもある哲野イサクさん(戸籍名:伊奈道明さん)が避難計画について研究するwebジャーナリストとしての立場で証言しました。
まずは、原告側弁護人による主尋問に答える形で哲野さんが伊方原発による避難計画について述べました。
その内容は、避難計画の杜撰さを暴露するものでした。
広島市は国の指示待ち、県は要望も国はなしのつぶて
南海トラフ地震についての防災計画はもちろん、広島県も広島市もあります。
ところが、伊方原発事故が発生した場合の避難計画は広島県も広島市もありません。
もし伊方原発が過酷事故を起こせば、原子力規制庁の楽観的なシナリオでも広島市も
4ミリシーベルト以上のヒバクを1週間ですることが読み取れます。
※また、瀬戸内海、太田川を伝って、汚染水が原爆ドームなど中心部はもちろん、
安佐南区の長束・西原あたりまでさかのぼることが予想されます。このあたりまで
海水が遡上しているので、当然、放射能も遡上するのは明らかです(筆者注)。
南海トラフ地震では広島市内は多くの場所で震度6弱と想定されますが、
中区の全域や西区、南区などでは液状化が予想されます。液状化により
道路なども寸断される可能性が高く、放射能(や放射能を含む海水)が襲ってきても
避難は極めて困難です。
そうした中で、広島市は、哲野さんの問い合わせに対して避難計画はない、国の指示が
なければしない、というのです。
広島県は、国に対して避難計画作成の指示をするように文書で要望をしているそうですが
なしのつぶてのようです。
広島県の担当者は哲野さんに対して、「原発事故の避難計画を作成できるだけの人材も予算もノウハウもない」
と回答しているそうです。
伊方周辺の原発事故避難計画、南海トラフ地震は全くリンクせず
では、原発事故が想定される地元の愛媛県はどうか?
哲野さんは、愛媛県内と山口県上関町が対象となっている避難計画についても全く機能しない、
と指摘します。
原発事故の避難計画は地元の伊方町と近隣の八幡浜市、宇和島市、西予市などについては
策定されています。
しかし、これまた、南海トラフ地震とは全くリンクさせていません。
この避難計画によると、クルマ(自家用車)での避難を基本としつつ、クルマでの避難が困難な人については
愛媛県バス協会がバスを提供して避難してもらうことになっています。
名目上は、避難に必要な輸送力は確保しているように思えます。
しかし、実際には、バスはいろいろなところで通常運行されています。原発事故が起きたからといって、
すぐに路線バスや観光バスとして運行されているバスを避難用に回すのは机上の空論です。
そして、致命的なのは、時間軸がこの避難計画にはないことです。
原発事故における避難は時間との戦いです。しかし、この避難計画には、その時間軸がない。
これではもたもたしているうちに人々はヒバクしてしまいます。
そして、さらに致命的なのは、南海トラフ地震でインフラが壊滅することを想定していないことです。
伊方町の国道197号線は、多くの区間で、斜面が片側または両側から迫っていたり、脇が崖だったりします。
震度6強程度の揺れに見舞われれば多くの区間で土砂崩れ、がけ崩れでずたずたになり、避難どころでは
なくなります。
また、佐田岬半島西部(三崎町)の人たちは、東側に原発がある以上、西へ向けて海経由で避難するしかありません。
しかし、南海トラフ地震では、多くの港の設備が崩壊すると予想されています。
そんな中で、船で避難するどころではありません。
この避難計画は、一応、国の原子力防災会議で承認はされていますが、ほとんど会議では審議されていません。
アメリカでは、事故発生時の天候や時刻など様々な条件をきちんとシミュレーションして避難計画を
立てることが義務付けられています。
そうしたことを背景にニューヨーク州のロードアイランド電灯会社によるショアハム原発が避難計画をまともに立てられず、住民の反対運動もあって、いったん完成したものの、営業運転することなく廃炉に追い込まれています。
四国電力弁護士の反対尋問、避難計画そのものの矛盾に言及できず
被告・四国電力の弁護士が、この後、哲野さんに反対尋問を行いました。
しかし、その内容は、哲野さんの著書に避難計画についてのものがあるのか?とか
イギリスやフランスの避難計画はどうなっているのか?
などでした。
哲野さんの主張の根幹である避難計画が南海トラフ地震とリンクしておらず、全く機能しない
ことへの反論は全く聞くことができませんでした。
次回の口頭弁論は5月31日(水)11時からです。被告・四国電力社員への人証調べが行われます。
by hiroseto2004
| 2023-04-19 16:29
| 伊方原発運転差止裁判
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