【検証・G7広島サミット】宮島入島制限―何が問題か 田村和之・広島大学名誉教授によるまとめ
2023年 05月 04日
宮島への入島制限は、移動の自由や企業の営業の自由を奪うもの。公共の福祉というからには、法的根拠が必要ですがそれが今回見当たりません。行政の行為は法律に基づいてされなければならないのに、それが今回ない。恐ろしいことです。そもそも、警察が警察官職務執行法に基づいて検問をやるならともかく、外務省が廿日市市にやらせる検問って、何なんですかね?岸田政権になって、安倍政権時代に栄華を誇った経産省が後退して、外務省が出しゃばっている感はありますが。
宮島入島制限―何が問題か
広島大学名誉教授 田 村 和 之
1 宮島入島制限とは
廿日市市による「G7サミット宮島地区説会」の「開催報告」によれば、「宮島島内への入島制限が行われる」とのことである。一種の入島禁止である。「宮島へ入島する際には外務省が発行する識別証及び車両証が必要」であるとのことである。
具体的には、次のような措置が講じられる。
㋐「一般観光客の入島が規制され」る。
㋑「住民、通勤通学者等は識別証の提示により入島可能」
㋒「宿泊の予約を入れないこと」「宿泊予約のキャンセル」をお願いする。
2 何が問題か―問題の所在
日本国内の一地域である廿日市市宮島町の区域に「入る」ことは、本来、憲法が保障する国民の自由であるところ、なぜ「識別証」がなければ、宮島地域に入れないのか。
憲法22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定め、居住・移転の自由を保障する。移動や旅行が居住、移転の自由に属することは明白である。この自由は国民の「身体の自由」に関わるものであり、安易な「公共の福祉」による制限は許されない。以上は、憲法学の定説である。
識別証を所持しないものは宮島への入島ができないとする措置は、きわめて強い「移動・旅行の自由」の制限である。
3 具体的な検討
―「識別証」を所持しない人は宮島への入島ができないこと(入島禁止)について―
次の①及び②が基本的な視点である。
① 日本国内の一定地域への立入り(宮島入島)を制限・禁止するには、法律の定め(根拠)が必要である。
② この措置を講じる必要があるとしても、法律の定めるところにより、必要な範囲内で行うことが求められる。しかし、識別証を所持しなければ宮島に入島できないとする法律は存在しない。
(多くのことが明確にされていないので、以下では疑問符をつけた文章となることがある。)
③ 外務省が識別証を発行するというが、同省にこのような権限があるとする法律の定めはない。
④ 報道によれば、5月2日、廿日市市は、3000人余りの識別証の発送業務を開始した。同市は、この業務を外務省から委託されて行っているようである。そうであれば、外務省と廿日市市の間には業務委託契約が締結されていることになるが、このように考えてよいか。
⑤ 宮島フェリーの運航会社は、識別証を所持しない人には乗船券を販売せず、乗船を拒否するのか この措置は海上運送法12条違反ではないか。
⑥ 宮島口側にチェックポイントが置かれ、「保安検査」を実施するとのことであるが、誰が行うのか。外務省職員が行うのか。それとも廿日市市職員や警察官などが行うのか。識別証を持たない人は、チェックポイント通過を拒むのか。この措置には実力行使を伴うのか。チェックポイントを通過しないで宮島に入島した場合(入島しようとする場合)、どのような措置が講じられるのか。
―その他の規制・制限―
⑦ 前述の㋒は、事実上、憲法の保障する営業の自由の制限であるから、法律の定めが必要になるのではないか。かりにこの制限が可能であるとしても、損失補償が必要ではないか。
⑧ 広島サミット県民会議は、「首脳等の移動ルートにある商店等にはシャッターを閉めてもらう」ことを求めている、法令に基づく措置か? それとも単なる要請か。この要請に従わなかったときは、何らかの措置が行われるのか。
「シャッターを閉めろ」などは、戦前を彷彿させるものである。
おわりに
宮島入島制限・禁止などについて、現在、信じがたいほど強い秘密の取扱い(秘密行政)が行われていることに注意する必要がある。
(2023年5月4日記)
宮島入島制限―何が問題か
広島大学名誉教授 田 村 和 之
1 宮島入島制限とは
廿日市市による「G7サミット宮島地区説会」の「開催報告」によれば、「宮島島内への入島制限が行われる」とのことである。一種の入島禁止である。「宮島へ入島する際には外務省が発行する識別証及び車両証が必要」であるとのことである。
具体的には、次のような措置が講じられる。
㋐「一般観光客の入島が規制され」る。
㋑「住民、通勤通学者等は識別証の提示により入島可能」
㋒「宿泊の予約を入れないこと」「宿泊予約のキャンセル」をお願いする。
2 何が問題か―問題の所在
日本国内の一地域である廿日市市宮島町の区域に「入る」ことは、本来、憲法が保障する国民の自由であるところ、なぜ「識別証」がなければ、宮島地域に入れないのか。
憲法22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と定め、居住・移転の自由を保障する。移動や旅行が居住、移転の自由に属することは明白である。この自由は国民の「身体の自由」に関わるものであり、安易な「公共の福祉」による制限は許されない。以上は、憲法学の定説である。
識別証を所持しないものは宮島への入島ができないとする措置は、きわめて強い「移動・旅行の自由」の制限である。
3 具体的な検討
―「識別証」を所持しない人は宮島への入島ができないこと(入島禁止)について―
次の①及び②が基本的な視点である。
① 日本国内の一定地域への立入り(宮島入島)を制限・禁止するには、法律の定め(根拠)が必要である。
② この措置を講じる必要があるとしても、法律の定めるところにより、必要な範囲内で行うことが求められる。しかし、識別証を所持しなければ宮島に入島できないとする法律は存在しない。
(多くのことが明確にされていないので、以下では疑問符をつけた文章となることがある。)
③ 外務省が識別証を発行するというが、同省にこのような権限があるとする法律の定めはない。
④ 報道によれば、5月2日、廿日市市は、3000人余りの識別証の発送業務を開始した。同市は、この業務を外務省から委託されて行っているようである。そうであれば、外務省と廿日市市の間には業務委託契約が締結されていることになるが、このように考えてよいか。
⑤ 宮島フェリーの運航会社は、識別証を所持しない人には乗船券を販売せず、乗船を拒否するのか この措置は海上運送法12条違反ではないか。
⑥ 宮島口側にチェックポイントが置かれ、「保安検査」を実施するとのことであるが、誰が行うのか。外務省職員が行うのか。それとも廿日市市職員や警察官などが行うのか。識別証を持たない人は、チェックポイント通過を拒むのか。この措置には実力行使を伴うのか。チェックポイントを通過しないで宮島に入島した場合(入島しようとする場合)、どのような措置が講じられるのか。
―その他の規制・制限―
⑦ 前述の㋒は、事実上、憲法の保障する営業の自由の制限であるから、法律の定めが必要になるのではないか。かりにこの制限が可能であるとしても、損失補償が必要ではないか。
⑧ 広島サミット県民会議は、「首脳等の移動ルートにある商店等にはシャッターを閉めてもらう」ことを求めている、法令に基づく措置か? それとも単なる要請か。この要請に従わなかったときは、何らかの措置が行われるのか。
「シャッターを閉めろ」などは、戦前を彷彿させるものである。
おわりに
宮島入島制限・禁止などについて、現在、信じがたいほど強い秘密の取扱い(秘密行政)が行われていることに注意する必要がある。
(2023年5月4日記)
by hiroseto2004
| 2023-05-04 21:28
| G7サミット広島2023
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