広島新病院と地域医療の後退 医療の統廃合とは、地域のいのちが粗末にされることに
2024年 03月 02日
広島県の湯崎英彦知事は、広島市南区宇品神田にある県立広島病院(県病院)や、広島市東区の広島駅新幹線口近くのJR広島病院(県立二葉の里病院へ改称予定)、広島がん高精度放射線医療センター、中区の中電病院、舟入市民病院小児救急などを統廃合し、広島駅北口のJR広島病院がある付近に1300-1400億円をかけて巨大病院を建設する計画を強硬に進めています。
現行の県病院周辺住民や、県病院を宇品港経由で利用する島しょ部周辺の人々から不安が広がる中、知事がご執心の事業で「湯崎病院」と呼んでもよいくらいです。既に、JR病院の土地を取得しました。1日には準備委員会が第一回の会合を行うなどしています。
そうした中で、2024年3月2日(土)、「県病院問題を考える会」は第三回学習会を広島市南区民文化センターで開催しました。
今回の講師は一般社団法人全国労働安全衛生協会 代表で甲府市議の山田厚さんです。
以下は山田さんのお話しの概要です。
今回の巨大病院構想について「国策路線ストレート」で地域医療計画の後退です。
どこの自治体当局でも、民意と異なる大きな事業を始める際は国の真似をして当局に都合のエライ人で構成される審議会
に中立性を装って発案させるものだが、広島県当局が基本計画を出しており、巨大事業の割にストレートな感じです。
メリットばかりを強調しており、地域住民のいのち健康を守る医療体制の内容とは異なっています。
急性期を集約して回復期に転換するという県の計画について、「機能集約」されるということは、その病院の機能がなくなるということです。
国は、この25年ほど、病床を「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」に機能分化し、
1,日本全体の病床は過剰だとして、全体の病床を削減
2、慢性期病床を削減するために介護施設や在宅へ移行
3,急性期を過剰だとして削減させる
4,回復期病床への移行促進させる
方針を出しています。人々の本来の医療の必要性とは関係なく、削減目標を設定し、その達成へ知事権限で医療機関に圧力をかけさせるのです。
そうした中で政府は2019年9月に424,のちに436の公立・公的医療機関について再編統合の必要があると公表。コロナ災害時も病院・病床削減を強行しましたが国の狙い通りには進んでいません。それでも、非公務員化の地方独立行政法人化で統廃合を進めるやり方を国は進めています。ただし、非公務員化したのは山梨県と三重県だけです。
独立行政法人は課税面では優遇されますが、経営は営利法人に近いものになります。
公的病院の削減は国の狙い通りではないものの、医療機関の廃業は拍車かかっています。
診療報酬の引き下げや消費税の「損税」(医療機関の場合、仕入れにかかる消費税は転嫁できないため、いわゆる「損税」です。
)高齢化、人材難などで医療機関がなくなっています。
地域に病院がなくなり、救急搬送も困難に
広島県当局は「医療資源の集約により救急応需率の向上を図る必要がある。」としていますが、集約で地域の病院がなくなればむしろ救急は搬送が困難になります。
湯崎知事が2023年9月におっしゃった「断らない救急体制を構築し」の逆になる可能性が大きいのです。また、病院があっても「措置困難」な回復期・慢性期のみでは対応できなくなってしまいます。
また、独立行政法人にするといわゆる差額ベッドも自治体病院の3割以下から5割以下まで拡大できるようになります。
その結果、患者の負担が増えます。
さらに、住民の声と議会の見解も病院に届かなくなってしまいます。不採算医療も含めた公的医療も維持されなくなってしまいます。
そして、大きな問題はまだあり、消費税で病床削減と病院統廃合を進めているということです。
消費税は福祉のため、とよく宣伝されていますが、病院や介護施設は消費税を転嫁できません。
輸出大手企業のような還付金もありません。
そしてその消費税を利用して医療を潰しているのです。
国=総務省は空きベッドが多い病院は統廃合の対象にすると実質的に脅しています。だが、
稼働率が高すぎるとこれはコロナのような有事だけでなく平時でも病床ひっ迫で受け入れ拒否
になってしまいます。
そもそも日本の医療は「病床過剰」ではない
そしてそもそも、日本の医療は病床過剰ではありません。
諸外国では施設扱いされる「精神病院」「長期ケア病床」を医療機関にしているなど、
統計上の問題もあるのです。
営利のための病院経営に必ずなっていく
いわゆる医療ツーリズムが国策になっています。そうした中で広島駅の近くにできる巨大病院は
差額ベッドを高額化した医療ツーリズム用になっていくことになるのではないでしょうか?
一方で、不採算医療は切り捨てられる。公費で、儲け追求の医療をやりつつ住民の命と健康は
切り捨てられる方向になるのではないでしょうか?
今の国の方向性は、公費投入を抑えることです。
すなわち、
患者・介護利用者の保険料や窓口負担・利用者負担増で、需要を無理やり抑え込む。
そして病院統廃合などで供給を削減する。
過重労働で医師や看護師、(筆者ら)介護福祉士の従事者数を抑制する。
要介護1,2の廃止などで供給を廃止していく
一方で、政府は、社会保障としての公的病院の役割を縮小・廃止しています。
自治体病院の不採算医療、保健衛生、防災、貿易などの本来の大切な目的と機能を説明せず、赤字は怪しからん、税金投入は怪しからんというマスコミなどの見解を野放しにしています。そして、経営優先の病院にしていくのです。
一方で、社会保障が後退することで、それに乗じて民間保険会社のビジネスが拡大する。しかし、それにより家計は圧迫されます。
「野となれ山となれ」方式の一部大手企業の儲けのためだけの事業
そして、もう一つは、上記の政策で国民生活が疲弊しているため、大手企業のための儲け先を公費でつくるのです。医療やICT化や、大阪万博、リニア建設、原発、最近ではタワーマンションや観光施設への優良建築物事業(公費補助3分の2)などは良い例です。いわゆるトリクルダウン仮説は破綻していますが、一握りの上層、大手企業のためのトリクルダウン事業は膨大な公費が
使われています。今回の広島県の新病院計画も一緒です。地域医療を壊して儲けに走っても、儲けにすらならない危険があります。
医療従事者が確保できない恐れ
そして、新病院の人事制度も、「ネットワーク型人事交流」と言えば聞こえは良いのですが、同じ職場で同じ仕事をしていても、賃金などの労働条件がそれぞれの病院ごとに異なることになります。ただでさえ過酷な医療労働者の労働条件。これでは、医療従事者の不足になってしまいます。
自治体の基本は福祉の増進
地方公営企業会計制度は2016年に50年ぶりに「大改正」されました。従来の公営企業はもちろん、民間企業の会計と比べてさえ、赤字が大きくに見えるようになりました。本来、行政の目的は儲けではなく、住民の福祉の増進なのです。そのために必要な一般会計からの行政経費や不採算経費としての繰り出しも法律で定められた自治体の義務です。なのに、それらを赤字呼ばわりされるようになりました。これにより、赤字が過大に強調されることで、病院を潰せ、という(マスコミなどの)論調を補強していったのです。
独裁につながる「迅速で柔軟な対応」
湯崎知事は、新巨大病院を地方公営企業ではなく、独立行政法人とする理由について
「迅速で柔軟な対応」ができるからとしています。
しかし、年度途中であっても、県が補正予算を組めば対応できます。災害時などはそれこそいわゆる専決処分で補正予算を決めたことも2018年の西日本大水害などのときもありました。
地方公営企業であっても柔軟な対応はできます。
むしろ「迅速で柔軟な対応」を理由として(知事が議会や住民のチェックを受けずに)勝手な計画をするほうが怖いのです。
あまりにもデメリットが多すぎる独法での新病院と新人事制度。スタッフが集まらないという危険と、知事による独裁の危険
を筆者も感じました。
このことについて、山田さんに質問したところ、「議員や住民でもきちんと勉強している人が少ない。そのことに
乗じて独裁的にふるまう首長が多くなっている」とのこと。
また、医療労働者の労働条件については「当事者労働者は疲弊しきっていてなかなか気づいていない。市民運動側から
問題点について説明していくことが大事ではないか?」とされました。
週間広島瀬戸内新聞ニュース2024第九週深堀り②大丈夫か?広島駅北巨大「湯崎病院」 今日学習会
by hiroseto2004
| 2024-03-02 21:05
| 広島県政(広島県議会)
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