トヨタ本位から生活本位へ
2008年 10月 19日
解散の見通しが不透明となった今、今国会での最大の争点は景気対策になると思われます。
国も自治体も、長い間、道路などの基盤整備を通じて、トヨタに象徴されるような大手企業の活動を強め、それを通じて国全体を底上げする政策を取ってきました。例えば、1960年代には、わたしの地元の広島県福山市にも大手製鉄会社(NKK,現JFE)が進出し、福山市は爆発的に発展しました。一方、農村部でも、大手企業の下請け工場など、兼業先ができて農家の所得も上昇しました。
こうした政策は、1970年代くらいまでは、高成長をもたらしていたし、国民の相当の部分も支持をしていました。
しかし、1980年代以降、特に1990年代以降、経済が安定成長時代に入ってからも、道路特定財源や各種の国の補助金制度は温存され、国民や地域住民のニーズと離れたために、マスコミでも自民党政治への批判が強まりました。
2001年に小泉さんが登場。古臭い政治を打倒してくれるかのような雰囲気をふりまきました。だが、小泉さんも、「大手企業応援」を強化しただけでした。
小泉さんと彼の腹心である竹中平蔵・金融担当大臣は、異常な低金利や「不良債権処理加速化」によりお金を海外に流出させました。さらに、国内では緊縮財政を行う一方で、巨額の米国債の購入も行いました。これらにより、円安に誘導し、2007年に「実質実効為替レート」(物価の変動も考慮に入れた円の価値)は、1985年以降で最低になりました。
一方で、小泉さんは、製造業への派遣労働者導入も解禁しました。
これらにより、トヨタをはじめとする輸出大手企業は最近まで過去最高益を更新し、大いに潤いました。
国による大手企業と輸出に依存するような路線に、地方自治体も従わざるを得ませんでした。地方が自由に使える財源である地方交付税は、小泉政権で5兆円以上も削減されたために、余計そうならざるをえなかったのです。
例えば、広島県でも、現在でも大手企業ほど進出に際して受け取る補助金が優遇されるような制度を採っています。広島県に限らず、大手企業「争奪」のための投資に各自治体は借金までしてお金を注ぎ込んだのです。
■崩壊した大手企業・アメリカからのトリックルダウン(おこぼれ)構造
しかし、こうした路線は、既に耐用年数を超えています。
第一に、アメリカの経済力の後退でこれ以上のアメリカへの輸出依存が望めそうもありません。欧州のバブルもはじけており、欧州も当てになりません。「トヨタ応援路線」の前提が大きく覆っているのです。
第二に、国民に大手企業応援の成果(おこぼれ)が行き渡らなくなっていることです。「大手企業の正社員」にとどまれた人は、まだ、セーフティネットがある。でもそうした人は一握りです。
非正規雇用の人は国民年金も払えない。そんな状況です。医療、介護など論外です。「非正規だからこそ、収入に比して高い国保料」を払わないといけないのです。
さらに、「ワークライフバランス」の掛け声はよいが、現実には、女性の7割が第一子出産後、仕事をやめざるを得ないのが現状です。この面でも、一部の大手企業と中小企業で福利厚生には差が大きいのです。
また、中小企業では、保険料の支払いが重荷となっており、これが標準報酬月額の改ざん、社会保険逃れなど脱法行為(それ自体は許されませんが)の背景にもなっているのです。
地方では、補助金を出して、大手企業を誘致していますが、雇われるのは、外部からやってきた派遣労働者が多く、地元住民は期待を裏切られる例は広島県内でも起きています。
大手企業「だけ」がいくら潤っても、これらの問題は解決されません。多くの庶民の生活不安は解消されません。
これらの是正が緊急の課題なのです。
■「二階から目薬」から「高さ20センチから目薬」へ
それには、「トヨタ本位」ではなく、「生活を直接応援する」景気対策が必要です。
「企業を通じたセーフティネット」が機能しなくなっているのだから、直接、国が責任を持って、セーフティネットを整備するのです。わかりやすくいえば「二階から目薬」ではなく「高さ20センチから目薬」にするのです。
思い切って、国民が不安を感じている分野である医療、介護、教育、環境などにお金を振り向けるべきです。
その仕方は、東京の大手企業「だけ」が儲かるような大型事業ではなく、「地元の人」にお金が流れるような方法にすべきです。
いまのところは、民主党のが、総額21兆円を超える対策案を出しています。
総理所信表明に対する代表質問 鳩山由紀夫幹事長
http://www.dpj.or.jp/news/?num=14173
共産党、社民党、国民新党なども、色合いの強弱はありますが、似たような路線だと思います。
社民党 総合的な経済対策について(コラム)
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/other/080901_economy.htm
国民新党 暮らしを守る緊急20兆円経済対策
http://www.kokumin.or.jp/seisaku/20080125.shtml
一方、自民党でも、中川昭一財務大臣は、大臣就任前の中央公論7月発行号で、全額税方式の基礎年金、さらに子育て費用、教育費の全額国庫負担などを打ち出しています。これはこれでひとつの考え方です。おそらく、彼が言いたいのは、「企業」ではなく、「社会全体」で、「最低限度の生活」を保障しようということでしょう。
中央公論8月号に発表しました「緊急提言・「改革のための改革」を止めよ 『日本経済復活のための13の政策』を漫画冊子にしました(中川昭一さんホームページ内)
http://www.nakagawa-shoichi.jp/speech/detail/20080829_364.html
このような中川さんの主張が「自民党の政策」として法案化されるなら、一定の比較のしようもあります。
しかし、今のところ、自民党は、民主党の財源が不明確、と批判していますが、大規模な対策は見えてきません。現段階では、評価のしようがありません。
麻生さんは、追加の景気対策について、投資減税や住宅ローン減税、あるいは証券優遇などを考えておられるようです。
しかし、これらの措置は投資マインドが上がっているときに初めて効果が上がるものではないか、と思います。庶民のところまで恩恵はきそうにないと思います。
■「応能負担」再確認を
景気対策の財源についてはどでしょうか?当面は、埋蔵金の活用はよいでしょう。しかし、国民にとって、負担(=財源)のあり方も考え直したいものです。
ここはやはり、「応能負担」を徹底すべきです。わたしは、赤字ないし、赤字寸前の中小企業に、社会保険料の負担を今の水準でさせるのは酷だと考えます。
おそらく、企業からは、社会保険料の事業主負担は軽減して、儲かっている企業からは高い法人税を頂く、という方向に改革して行った方が、中小企業も助かるし、雇用も増やしやすいでしょう。
景気が悪いときは、税収が減りますが、それは仕方がありません。それこそ「財政の景気自動安定化機能」です。
個人については、高額所得者にはもっとご負担いただくべきです。さまざまな控除は廃止するかわりに、課税最低限は引き上げればよい。
また、表面上の累進税率を下げても、たとえば、財産所得に対して課税を強化するという手もあります。各党でしっかり議論していただきたい。
また、高齢者については、医療保険料や介護保険料は免除する一方、所得の高い人からは多く税金をいただく仕組みがよいと思います。そもそも、所得が高い人は、(よほど浪費とか大病がない限り)現役時も収入が多く、退職金も多いから生活に困らないでしょう。
■お金持ち・大手への過度の忖度は無意味
なお、以上の案を提案すると決まって出てくるのが「お金持ちや大手企業が海外へ逃げる」という反論です。
しかし、税率が高くても、日本で商売すれば儲かるくらい、景気が回復すれば、問題はないのです。(一方で、タックスへブンについては、各国協調して廃止へ向かうべきでしょう)。実際、最近まで日本より景気がよかったフランスなどは日本より税率は高いが、いくらでも日本企業は進出しています。
また、道路ではなく、地域での公共交通や介護などにお金が回るようになれば、大手企業もそれに応じて投資を行います。例えばトヨタは、昔、自動織機から車に進出したのです。頭の古い政治家や官僚が、大手企業の意向を忖度して、政策転換を遅らせるのは逆に大手企業に対しても失礼に当たるでしょう。
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国も自治体も、長い間、道路などの基盤整備を通じて、トヨタに象徴されるような大手企業の活動を強め、それを通じて国全体を底上げする政策を取ってきました。例えば、1960年代には、わたしの地元の広島県福山市にも大手製鉄会社(NKK,現JFE)が進出し、福山市は爆発的に発展しました。一方、農村部でも、大手企業の下請け工場など、兼業先ができて農家の所得も上昇しました。
こうした政策は、1970年代くらいまでは、高成長をもたらしていたし、国民の相当の部分も支持をしていました。
しかし、1980年代以降、特に1990年代以降、経済が安定成長時代に入ってからも、道路特定財源や各種の国の補助金制度は温存され、国民や地域住民のニーズと離れたために、マスコミでも自民党政治への批判が強まりました。
2001年に小泉さんが登場。古臭い政治を打倒してくれるかのような雰囲気をふりまきました。だが、小泉さんも、「大手企業応援」を強化しただけでした。
小泉さんと彼の腹心である竹中平蔵・金融担当大臣は、異常な低金利や「不良債権処理加速化」によりお金を海外に流出させました。さらに、国内では緊縮財政を行う一方で、巨額の米国債の購入も行いました。これらにより、円安に誘導し、2007年に「実質実効為替レート」(物価の変動も考慮に入れた円の価値)は、1985年以降で最低になりました。
一方で、小泉さんは、製造業への派遣労働者導入も解禁しました。
これらにより、トヨタをはじめとする輸出大手企業は最近まで過去最高益を更新し、大いに潤いました。
国による大手企業と輸出に依存するような路線に、地方自治体も従わざるを得ませんでした。地方が自由に使える財源である地方交付税は、小泉政権で5兆円以上も削減されたために、余計そうならざるをえなかったのです。
例えば、広島県でも、現在でも大手企業ほど進出に際して受け取る補助金が優遇されるような制度を採っています。広島県に限らず、大手企業「争奪」のための投資に各自治体は借金までしてお金を注ぎ込んだのです。
■崩壊した大手企業・アメリカからのトリックルダウン(おこぼれ)構造
しかし、こうした路線は、既に耐用年数を超えています。
第一に、アメリカの経済力の後退でこれ以上のアメリカへの輸出依存が望めそうもありません。欧州のバブルもはじけており、欧州も当てになりません。「トヨタ応援路線」の前提が大きく覆っているのです。
第二に、国民に大手企業応援の成果(おこぼれ)が行き渡らなくなっていることです。「大手企業の正社員」にとどまれた人は、まだ、セーフティネットがある。でもそうした人は一握りです。
非正規雇用の人は国民年金も払えない。そんな状況です。医療、介護など論外です。「非正規だからこそ、収入に比して高い国保料」を払わないといけないのです。
さらに、「ワークライフバランス」の掛け声はよいが、現実には、女性の7割が第一子出産後、仕事をやめざるを得ないのが現状です。この面でも、一部の大手企業と中小企業で福利厚生には差が大きいのです。
また、中小企業では、保険料の支払いが重荷となっており、これが標準報酬月額の改ざん、社会保険逃れなど脱法行為(それ自体は許されませんが)の背景にもなっているのです。
地方では、補助金を出して、大手企業を誘致していますが、雇われるのは、外部からやってきた派遣労働者が多く、地元住民は期待を裏切られる例は広島県内でも起きています。
大手企業「だけ」がいくら潤っても、これらの問題は解決されません。多くの庶民の生活不安は解消されません。
これらの是正が緊急の課題なのです。
■「二階から目薬」から「高さ20センチから目薬」へ
それには、「トヨタ本位」ではなく、「生活を直接応援する」景気対策が必要です。
「企業を通じたセーフティネット」が機能しなくなっているのだから、直接、国が責任を持って、セーフティネットを整備するのです。わかりやすくいえば「二階から目薬」ではなく「高さ20センチから目薬」にするのです。
思い切って、国民が不安を感じている分野である医療、介護、教育、環境などにお金を振り向けるべきです。
その仕方は、東京の大手企業「だけ」が儲かるような大型事業ではなく、「地元の人」にお金が流れるような方法にすべきです。
いまのところは、民主党のが、総額21兆円を超える対策案を出しています。
総理所信表明に対する代表質問 鳩山由紀夫幹事長
http://www.dpj.or.jp/news/?num=14173
共産党、社民党、国民新党なども、色合いの強弱はありますが、似たような路線だと思います。
社民党 総合的な経済対策について(コラム)
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/other/080901_economy.htm
国民新党 暮らしを守る緊急20兆円経済対策
http://www.kokumin.or.jp/seisaku/20080125.shtml
一方、自民党でも、中川昭一財務大臣は、大臣就任前の中央公論7月発行号で、全額税方式の基礎年金、さらに子育て費用、教育費の全額国庫負担などを打ち出しています。これはこれでひとつの考え方です。おそらく、彼が言いたいのは、「企業」ではなく、「社会全体」で、「最低限度の生活」を保障しようということでしょう。
中央公論8月号に発表しました「緊急提言・「改革のための改革」を止めよ 『日本経済復活のための13の政策』を漫画冊子にしました(中川昭一さんホームページ内)
http://www.nakagawa-shoichi.jp/speech/detail/20080829_364.html
このような中川さんの主張が「自民党の政策」として法案化されるなら、一定の比較のしようもあります。
しかし、今のところ、自民党は、民主党の財源が不明確、と批判していますが、大規模な対策は見えてきません。現段階では、評価のしようがありません。
麻生さんは、追加の景気対策について、投資減税や住宅ローン減税、あるいは証券優遇などを考えておられるようです。
しかし、これらの措置は投資マインドが上がっているときに初めて効果が上がるものではないか、と思います。庶民のところまで恩恵はきそうにないと思います。
■「応能負担」再確認を
景気対策の財源についてはどでしょうか?当面は、埋蔵金の活用はよいでしょう。しかし、国民にとって、負担(=財源)のあり方も考え直したいものです。
ここはやはり、「応能負担」を徹底すべきです。わたしは、赤字ないし、赤字寸前の中小企業に、社会保険料の負担を今の水準でさせるのは酷だと考えます。
おそらく、企業からは、社会保険料の事業主負担は軽減して、儲かっている企業からは高い法人税を頂く、という方向に改革して行った方が、中小企業も助かるし、雇用も増やしやすいでしょう。
景気が悪いときは、税収が減りますが、それは仕方がありません。それこそ「財政の景気自動安定化機能」です。
個人については、高額所得者にはもっとご負担いただくべきです。さまざまな控除は廃止するかわりに、課税最低限は引き上げればよい。
また、表面上の累進税率を下げても、たとえば、財産所得に対して課税を強化するという手もあります。各党でしっかり議論していただきたい。
また、高齢者については、医療保険料や介護保険料は免除する一方、所得の高い人からは多く税金をいただく仕組みがよいと思います。そもそも、所得が高い人は、(よほど浪費とか大病がない限り)現役時も収入が多く、退職金も多いから生活に困らないでしょう。
■お金持ち・大手への過度の忖度は無意味
なお、以上の案を提案すると決まって出てくるのが「お金持ちや大手企業が海外へ逃げる」という反論です。
しかし、税率が高くても、日本で商売すれば儲かるくらい、景気が回復すれば、問題はないのです。(一方で、タックスへブンについては、各国協調して廃止へ向かうべきでしょう)。実際、最近まで日本より景気がよかったフランスなどは日本より税率は高いが、いくらでも日本企業は進出しています。
また、道路ではなく、地域での公共交通や介護などにお金が回るようになれば、大手企業もそれに応じて投資を行います。例えばトヨタは、昔、自動織機から車に進出したのです。頭の古い政治家や官僚が、大手企業の意向を忖度して、政策転換を遅らせるのは逆に大手企業に対しても失礼に当たるでしょう。
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by hiroseto2004
| 2008-10-19 12:55
| 経済・財政・金融
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