イタリア政府, 退役軍人への「劣化ウラン被害一括補償」を閣議決定
2009年 01月 14日
[以下、転送・転載歓迎。重複受信される方、ご容赦ください]
2009年1月14日
皆様
バルカン半島の旧ユーゴでの紛争にNATOが介入した際[1994-1995 年のボスニア=ヘルツェゴヴィナ及び1999年のコソ ヴォ]、米軍は多量の劣化ウラン弾が使用しましたが、その
後、PKO(「平和維持部隊」)などとして紛争地に派遣された ヨーロッパ諸国の兵士の間から白血病やがんの患者が多く現れ、 「バルカン症候群」として大きな問題となりました。[2001
年1月、EU 議会は、「劣化ウラン弾使用のモラトリア ム(使用停止)」と求める決議を初めて採択。]
特にイタリアでは、病気になった退役軍人や遺族が国に補償を求め て裁判に訴えるケースがここ数年相次いでおり、政府も真剣な対応 を余儀なくされてきています。昨年末には、ついに国防大臣が「劣 化ウラン被害者」の存在を初めて公に認め、ウラン兵器への被曝に よって疾病に罹患した兵士に対する「補償」を行うことが閣議決定 されました。NATOに属するイタリアでの、このような動き は、ウラン兵器被害者への補償・支援にとって重要であるだけでな く、そのような健康被害を引き起こすウラン兵器そのものの禁止に 向けても大きな意義があると言えます。
1月9日付けで、「ウラン兵器禁止を求める国際連合」
(ICBUW)のホームページに掲載された、イタリアからの報告 の日本語訳をご紹介します。
ICBUW運営委員:嘉指信雄/振津かつみ/森瀧春子
【イタリア政府、退役軍人への「劣化ウラン被害一括補償」を閣議 決定―補償総額3000万ユーロ(約40億円)】
ステファニア・ディヴェルティート(ジャーナリスト/ICBUW 運営委員):イタリア、2009年1月9日
イタリアでは、昨年12月、国防省が政府に「健康障害と劣化ウラン被 曝との関連」を受け入れさせ、補償一括法案が合意された。また今 後数ヶ月のうちに、国外派兵された兵士の健康調査が発表される予 定である[訳注1]。
2008年12月18日の閣議において、イグナツィオ・ラ・ルッサ
(Ignazio La Russa)国防大臣は、劣化ウラン被害者に対する3000万ユーロの補償一括法案への承認を勝ち取った。補償金は、今後3 年間にわたって支払われる。
この閣議決定は、病気の退役軍人に対する財政支援を決めたことに 加え、ウラン兵器への曝露によって疾病に罹患した兵士がいること を認めたものである。閣議後の記者会見において国防大臣は、「劣 化ウランやナノ粒子の被害者である兵士やその家族を支援すること は、我々の義務である」と述べた。しかし、この重要な発言は、主 要メディアによりほとんど取り上げなかった。
この決定は、調査委員会を任命したプロディ前政権が着手した作業 の最終段階となるものである。2008年3月に作業を終え た委員会では、退役軍人の疾病の明確な原因として劣化ウランを挙 げることはしていなかったものの、劣化ウランが使用された戦闘地 域の環境汚染が疾病の原因の一つとなり得るとの判断を示した。
委員会はまた、立証義務を逆転させるべきであるとの見解を示した [訳注2]。つまり、派兵後に兵士が病気になったり、あるいは兵 士の体内に重金属ナノ粒子が検出された場合には、劣化ウランが使 用された地域へ派兵されていたとの証明があれば、補償を得るため の十分な根拠となると結論づけたのである。このような重要な動き は、亡くなった兵士の家族や、白血病を患って国を相手に訴訟を起 こしている兵士にとって、大きな力となっている。
そのような補償を求める裁判のひとつが、亡くなったヘリコプター 操縦士のステファノ・メローネ氏の妻が闘った訴訟だった。何年に も及ぶ闘いの末、昨年12月、ついに最高裁は、メローネ氏の死亡に対 して補償を行うようにとの判決を下した。
しかしながら、この閣議決定にもかかわらず、国外派兵から帰還し たイタリア兵の健康評価については、まだ二つの大きな問題が残さ れている。
イタリア軍の各々の管轄区から、疾病に罹患した兵士のデータを収 集し照合するために、何百人もの職員が作業を行ってきたが、期限 が過ぎてもまだ結果が出ていない。データを記入した用紙が集めら れたが、しばしば記載が不完全な、これら何千もの用紙から、デー タをデジタル様式に入力し直すという作業がゆっくりと行われてい る。この調査の当初の期日は2008年10月だったので、 国防省の職員は調査を終わらせるべく全力で作業を行っている。イ タリア兵に関する初めての完全なスクリーニングとなるこの調査結 果が、数ヶ月のうちには公表されるものと期待される。調査結果 は、イタリアの退役軍人の間の健康障害の程度について、より明ら
かな状況を示すものと期待される。
健康評価の公表が当初の計画より遅れていることに加えて、オッセ ルヴァトーリオ・ミリターレ(Osservatorio Militare)や Anavafafなどの、退役軍人の団体は、調査データが不完全であるこ とを批判している。調査は、1996年から2006年の間についてし か行われておらず、これでは、イタリア軍がボスニア(1994 年)とソマリア(1995年)に派兵された期間が除外されてし まうことになるのである。
2007年末に政府が任命したイタリアの科学委員会の作業は、1年も 遅れてしまったが、委員会にとって、今年は重要な年になるだろ う。委員会には、核エネルギー専門家の(マッシモ・ズケッ ティ)Massimo Zucchetti教授、ナノ粒子研究者の(マリア・ アントニエッタ・ガッティ)Maria Antonietta Gatti、疫学 者の(ヴァレリオ・ジェンナロ)Valerio Gennaroも参加して いる。
[訳注1] 今回の「一括補償」の対象者となる退役軍人の人数 についてディヴェルティートさんに問い合わせたところ、「いまだ に政府はその数を公表しておらず、情報の入手は難しい」とのこと だが、退役軍人団体「オッセルヴァトーリオ・ミリターレ」は、 「166人の帰還兵がすでに死亡し、2537人が疾患に罹っ ている」と報告している。
[訳注2] これまでは、病気にかかって補償を求めている兵士 の側が、「劣化ウラン被曝と疾病との間に因果関係がある」こと を、政府に対して証明しなければならないとされていたが、その立 場を逆転させて、「因果関係はない」と政府側が証明できないので あれば、補償をすべきであるとした。
尚、英文記事は下記のICBUWのサイトをご覧下さい。
http://www.bandepleteduranium.org/en/a/222.html
(訳:振津かつみ・嘉指信雄/ICBUW運営委員)

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2009年1月14日
皆様
バルカン半島の旧ユーゴでの紛争にNATOが介入した際[1994-1995 年のボスニア=ヘルツェゴヴィナ及び1999年のコソ ヴォ]、米軍は多量の劣化ウラン弾が使用しましたが、その
後、PKO(「平和維持部隊」)などとして紛争地に派遣された ヨーロッパ諸国の兵士の間から白血病やがんの患者が多く現れ、 「バルカン症候群」として大きな問題となりました。[2001
年1月、EU 議会は、「劣化ウラン弾使用のモラトリア ム(使用停止)」と求める決議を初めて採択。]
特にイタリアでは、病気になった退役軍人や遺族が国に補償を求め て裁判に訴えるケースがここ数年相次いでおり、政府も真剣な対応 を余儀なくされてきています。昨年末には、ついに国防大臣が「劣 化ウラン被害者」の存在を初めて公に認め、ウラン兵器への被曝に よって疾病に罹患した兵士に対する「補償」を行うことが閣議決定 されました。NATOに属するイタリアでの、このような動き は、ウラン兵器被害者への補償・支援にとって重要であるだけでな く、そのような健康被害を引き起こすウラン兵器そのものの禁止に 向けても大きな意義があると言えます。
1月9日付けで、「ウラン兵器禁止を求める国際連合」
(ICBUW)のホームページに掲載された、イタリアからの報告 の日本語訳をご紹介します。
ICBUW運営委員:嘉指信雄/振津かつみ/森瀧春子
【イタリア政府、退役軍人への「劣化ウラン被害一括補償」を閣議 決定―補償総額3000万ユーロ(約40億円)】
ステファニア・ディヴェルティート(ジャーナリスト/ICBUW 運営委員):イタリア、2009年1月9日
イタリアでは、昨年12月、国防省が政府に「健康障害と劣化ウラン被 曝との関連」を受け入れさせ、補償一括法案が合意された。また今 後数ヶ月のうちに、国外派兵された兵士の健康調査が発表される予 定である[訳注1]。
2008年12月18日の閣議において、イグナツィオ・ラ・ルッサ
(Ignazio La Russa)国防大臣は、劣化ウラン被害者に対する3000万ユーロの補償一括法案への承認を勝ち取った。補償金は、今後3 年間にわたって支払われる。
この閣議決定は、病気の退役軍人に対する財政支援を決めたことに 加え、ウラン兵器への曝露によって疾病に罹患した兵士がいること を認めたものである。閣議後の記者会見において国防大臣は、「劣 化ウランやナノ粒子の被害者である兵士やその家族を支援すること は、我々の義務である」と述べた。しかし、この重要な発言は、主 要メディアによりほとんど取り上げなかった。
この決定は、調査委員会を任命したプロディ前政権が着手した作業 の最終段階となるものである。2008年3月に作業を終え た委員会では、退役軍人の疾病の明確な原因として劣化ウランを挙 げることはしていなかったものの、劣化ウランが使用された戦闘地 域の環境汚染が疾病の原因の一つとなり得るとの判断を示した。
委員会はまた、立証義務を逆転させるべきであるとの見解を示した [訳注2]。つまり、派兵後に兵士が病気になったり、あるいは兵 士の体内に重金属ナノ粒子が検出された場合には、劣化ウランが使 用された地域へ派兵されていたとの証明があれば、補償を得るため の十分な根拠となると結論づけたのである。このような重要な動き は、亡くなった兵士の家族や、白血病を患って国を相手に訴訟を起 こしている兵士にとって、大きな力となっている。
そのような補償を求める裁判のひとつが、亡くなったヘリコプター 操縦士のステファノ・メローネ氏の妻が闘った訴訟だった。何年に も及ぶ闘いの末、昨年12月、ついに最高裁は、メローネ氏の死亡に対 して補償を行うようにとの判決を下した。
しかしながら、この閣議決定にもかかわらず、国外派兵から帰還し たイタリア兵の健康評価については、まだ二つの大きな問題が残さ れている。
イタリア軍の各々の管轄区から、疾病に罹患した兵士のデータを収 集し照合するために、何百人もの職員が作業を行ってきたが、期限 が過ぎてもまだ結果が出ていない。データを記入した用紙が集めら れたが、しばしば記載が不完全な、これら何千もの用紙から、デー タをデジタル様式に入力し直すという作業がゆっくりと行われてい る。この調査の当初の期日は2008年10月だったので、 国防省の職員は調査を終わらせるべく全力で作業を行っている。イ タリア兵に関する初めての完全なスクリーニングとなるこの調査結 果が、数ヶ月のうちには公表されるものと期待される。調査結果 は、イタリアの退役軍人の間の健康障害の程度について、より明ら
かな状況を示すものと期待される。
健康評価の公表が当初の計画より遅れていることに加えて、オッセ ルヴァトーリオ・ミリターレ(Osservatorio Militare)や Anavafafなどの、退役軍人の団体は、調査データが不完全であるこ とを批判している。調査は、1996年から2006年の間についてし か行われておらず、これでは、イタリア軍がボスニア(1994 年)とソマリア(1995年)に派兵された期間が除外されてし まうことになるのである。
2007年末に政府が任命したイタリアの科学委員会の作業は、1年も 遅れてしまったが、委員会にとって、今年は重要な年になるだろ う。委員会には、核エネルギー専門家の(マッシモ・ズケッ ティ)Massimo Zucchetti教授、ナノ粒子研究者の(マリア・ アントニエッタ・ガッティ)Maria Antonietta Gatti、疫学 者の(ヴァレリオ・ジェンナロ)Valerio Gennaroも参加して いる。
[訳注1] 今回の「一括補償」の対象者となる退役軍人の人数 についてディヴェルティートさんに問い合わせたところ、「いまだ に政府はその数を公表しておらず、情報の入手は難しい」とのこと だが、退役軍人団体「オッセルヴァトーリオ・ミリターレ」は、 「166人の帰還兵がすでに死亡し、2537人が疾患に罹っ ている」と報告している。
[訳注2] これまでは、病気にかかって補償を求めている兵士 の側が、「劣化ウラン被曝と疾病との間に因果関係がある」こと を、政府に対して証明しなければならないとされていたが、その立 場を逆転させて、「因果関係はない」と政府側が証明できないので あれば、補償をすべきであるとした。
尚、英文記事は下記のICBUWのサイトをご覧下さい。
http://www.bandepleteduranium.org/en/a/222.html
(訳:振津かつみ・嘉指信雄/ICBUW運営委員)

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by hiroseto2004
| 2009-01-14 12:29
| 反核・平和(ウラン兵器禁止)
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